日本中世の村落

 勢いでこれも読んでしまおう。「中世において近世以後ほど都市・農村の分離は見られなかった」(118頁)。
「すなわち平安末の荘園は多くの地方豪族が、自己の土地に対する所有権を確保するために、名義上中央貴族に土地を寄進した事により成立したものであって、寄進後も土地に対する実権は地方の土豪に握られていた」27。貴族は荘園に現地支配に関心をもたす、農村の現実生活から遊離して、武士勢力の台頭を招き、鎌倉期には、貴族の荘園領主と武士の封建領主的支配が二重化し、貴族の領主権が弱体化していく。
「名田は荘園的領主権のもとに成立した土地所有の確認されたもの」(35)であり、「この名主を基礎に武士団の封建所領が生育し始める」(45)そこから武士的領有が発展していく。村落全体の問題については、御家人の名主に対しては地頭、非御家人の名主に対しては荘園領主が領主権を握っていた(預所)。そして、中世の商業の担い手はこの名主であった。
 解説にもあるが、ほとんど石母田の先駆をなすような議論である。しかし、岩波文庫に入ってる本はなぜここまで昔に遡るのだろう、以降にも名著と呼ぶに値する日本中世史の本はあるであろうに。現代文庫として評価の曖昧な本まで入れてしまって、間を埋めるような名著が文庫化されていない。少なくとも、解説で以降に読むに値する書物を紹介してほしいものだ*1
 

日本中世の村落 (岩波文庫)

日本中世の村落 (岩波文庫)