日本倫理思想史
家康による文教政策による武士の教化は「キリシタンの刺激に対する防御として役立ったのみでなく、戦国時代以来武士たちの間に目ざめた道義心に理論的な拠り所を与え、心ある武士たちの眼を昔風の武者の習いから儒教的な士太夫の道、士君子の道の方へ向け変えたのである」(306頁)。しかも、こうした儒教はしばしば神道に重ねられていく。そんなわけで、こうも言われている。「この思想混乱の時機に当たって、いわばキャスティング・ヴォートを握っていたのは、日本の第一期以来の伝統的思想であったのである」(194頁)。
しかし、殉死や仇討ちのように「士道の考えがこのように優勢になったとはいっても、それは主として知識層の間のことであって、広範な層に沁み込んでいる献身の道徳の伝統を打破することはできなかった」(306頁)。のみならず、『忠臣蔵』を生み出したのは、鎌倉時代の武者の習いの伝統をうけ義経記や蘇我物語を通じて、主君や親のために身命をささげるという献身的な態度に共鳴している民衆、特に町人たちであった」(338頁)。たしか、丸谷才一は『忠臣蔵』を御霊信仰から説明していたと思うが、あれどんな話だっけ。
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