ドコニモイケナイ

 これってたまたまとらえた素材を追いかけていくなかで撮れてしまった映像がこういう作品を作らせてしまったんだろうなと感じさせずにはいられない作品。みながら思う。彼女はどこから幻想の世界を生きていたのだろうか。そして、帰郷してあとの彼女はどれだけ幻想の世界を生きているのだろうか。しかし、それは特定可能なんだろうか。いわゆるフィクションのなかではこういうのよくあるけれど、ドキュメンタリーではなかなかない。それが映像に捕らえられている。
 考えるに、こうした幻想には寄生先が必要で、そうした寄生先があれば幻想を抱えたまま生きていける。これでいくとかつての渋谷はそうした街だったってことになるんだろうな。メタファーとして、これは失礼かもしれないが、幻想はウィルスに似ている。ウィルスは、生物のようでいて生物ではない(細胞を持っていない)。寄生主に寄生して複製を作る。あまりに毒性が強すぎると寄生主がすぐに死んでしまうので複製を作るには不都合である。彼女が抱いていた「幻想」はそれこそ少なからずの若者が抱いていたそれでもあろう。つまり必ずしも現実につながっていなかったわけでもない。しかも、幻想は感染するのである。