絀川ビレッジ
いくら落ちぶれても、あるいはのし上がっても百姓の身分というのは固定してものであり、またそれが争いのタネにもなった。
結論を述べるとすれば、身分による区別と身分によって生み出される区別は、�川期を通じて村落生活の不可欠な部分であった。事実上土地を持たない本百姓が記録に頻繁に現れていることからわかるように、身分はそれ自体異なった仕組みである経済的階級に取って代わられることはなかった。身分的区分の根拠となったものは、村内における経済的要素と村外における政治的現実性であり、後者は前者を補強するものであった。代々認められてきた農民であり、村の政策決定者であった者の威信が高められたのは、領主から課せられた年貢と夫役に対する共同体の責務を司ることによるものであった。この公式の義務が彼らを、本物の本百姓にしたのである(216頁)
幕府や領主は自分たちの権威が安泰であるかぎり、村落の自律性は尊重された。
公的には将軍と大名が法的問題の処理を独占していたのだが、それら大権威の第一の関心が社会的公正ではなく、まして公的秩序自体の維持ですらなかったことはたしかである。そっらが専心していたのは何よりもまず、自身の権威の安定であった。したがって、大権威は「私的公正」を黙認したのだが、それが公的なものとなって権威に大ぴらに刃向かうものではないことを許容範囲とした。この二極的立場は、村掟や村の裁きの情勢を大きく左右するものであった(267-8頁)。
覚えておかなければならないことは、村とは非公式な権力場であり、そこでの争いは大抵の場合家計間において生じたものである。そうであるならば、本章で論じたいくつかの慣行ー村八分、犯罪の入札、入札の談合に対して講じた手段ーについて新しい光が投げかけられたことに気がつかれるであろう。長治郎の訴訟からわかるように、村八分はかならずしも「村の全員一致」で成立したわけではなく、たいていの場合は村内の派閥争いによるものであり、適切なことに幕府も十九世紀にはその適用を禁止するようになった。村人の考えでは、解決できないような犯罪の解決策とはたいてい、共同体の分断線に沿って構造化される傾向を持っていた(269頁)。
- 作者: ヘルマンオームス,Herman Ooms,宮川康子
- 出版社/メーカー: ぺりかん社
- 発売日: 2008/05
- メディア: 単行本
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