山下達郎

 はじめて山下達郎を聞いたとき、もちろん「ライド・オン・タイム」(1980)である、その圧倒的なヴォーカルとそれまでの「ニューミュージック」にない洋楽的な音楽性に圧倒された。当時、ロック御三家とか言われていだけど全然違うと思った(もちろん、テレビでは見られないでいたチャーの一面を後に知ることになるし、アンダーグラウンドのロック・シーンのことも知るようになるし、いろいろ後から出てくる評価はあるのだが)。
 その山下達郎某国営放送でラジオ番組を始めるというので聞きだしたのだが、この人あまり自分の曲をかけない。一方で、聞いたこともないような曲をかける。最初はなんだと思っていたけれど、だんだんそっちの方が面白くなってきた。他方で、『FOR YOU』がバカ売れして夏の山下達郎みたいなイメージが定着して「クリスマス・イブ」が売れて、ちょっと彼の音楽を敬遠したい気分が自分のなかに出てきた一方、山下達郎がかける音楽はますます面白くなるばかり。
 ちょっとだけ書けば、私がスライの「サンキュー」(もちろん、ラリー・グラハムのチョッパー・ベースばりばりの方)をサンソンで聞いたのが高校生時分の頃だが、これを機会に自分の音楽の趣味が一転していくことになる。単純なプログレ、ハードロック志向であとはパンクとかニューウェイヴをもっぱら聞いていたのガキが完全にブラック・ミュージック志向になった。当時、日本盤が手に入らず、新宿のセコハン屋でスライ&ザ・ファミリー・ストーンの輸入盤の『アンソロジー』を見つけたときのことは忘れられない。いや、思わず手が震えたよ。その後、繰り返し聞いたのは言うまでもない。
 また、今年になってのジョージ・フィショフ特集、ちょっと前ならジェリー・ ラガヴォイ特集とかありましたが、ソングライター特集なんかがどんどん面白くなっていった。アンダース&ポンシアなんて絶対に達郎の番組なしに知ることはなかったはず。「New York's A Lonely Town」なんて何度か聞くうちに大好きな一曲になってしまった(ご本人もこれや「Guess I'm Down」をカヴァーしてますね。デイヴ・エドモンズ版も手に入れましたよ)。あるいは、デヴィッド・ゲイツをソングライターとして意識することもなかったろう。そんな感じで、一方でポップな曲の面白さ、隠れた前衛性みたいなものに気づくようになり、そのせいかブライアン・ウィルソンが大好きになった。あるいは、ハル・ブレインみたいなセッション・ミュージシャンの名前を気にかけるようのもこの番組がきっかけだ。
 当然、新春放談は、よその番組で間借りした時も聞き逃したことがない(今年はナイアガラ・トライアングル2に譲ったのかしら)。番組のトークを聞いていても、この人、音楽のことでも、他のことでもなにやら強烈なポリシーを感じる。それになぜか、私と同じ落語好きということは関係ないが*1、一時期のイメージが抜けたし、毎週聞いていればやっぱり耳になじんで好きな曲も出てくる。『ボクの中の少年』とかとても好きだし、いったいこの人はどんなライブをやるんだろうといつしか一度彼の姿を生で見てみたいと思うようになった。
 で、調べてみたら、私の記憶している年と、ライブがあった年がずれているのだが、とにかく、定職に就くことが決まり(それまではライブ行くぐらいならCDを買っていた)、これまでのように金の心配をしなくてもよくなった一方ツアーがある。というわけで、チケットをと思ったが、(2回チャンスがあると思ったのに)引っ越しのどさくさもあって横浜も名古屋もチケットがとれなかった。その後、ツアーをやることも減り、最近も挑戦しては毎回外れ続けた。だいたい、発売日にチケット取るみたいな器用なマネが私にはできないのだ。他でもろくにとれたためしがない。仕方がないから、ファンクラブに入ろうかと思ったが、某カードの会員にならなきゃならないってのが気に入らなかったし、それで入会できるのかどうかもよくわからない。
 そして、昨年、ニューアルバムが出た。「俺の空」なんてご機嫌な曲が入っている。今度こそと思ったら、なんと昨年、チケットがとれてしまった。というわけで、10年以上かけて念願を果たすことができた。中身については具体的には書かない。いや、一つだけ「スパークル」のカッティングが生で聞けたよ。いずれにせよ、彼一流のこだわりが感じられるどこまも楽しいライヴであったと記しておきたい。しかし、噂通り、アンコールを入れると軽く3時間半ぐらいになってしまうライブで、あれだけ歌って、あれだけの声が出るというのだから、おそろしいことこのうえない。
 声が続くかぎり毎年やってくれるそうだから、これからも毎回チケットとりに挑戦してみよう。毎回はむりでもときどきはあたらないかな。
 

Ray Of Hope (初回限定盤)

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Ray Of Hope

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*1:ちなみに、拙宅で流れていたサンソンを耳にした当時小学生だっためいが、山下達郎のしゃべりを聞いて、「○○さんだ」(私のこと)と言ったらしい。そんなに似てるのかな。これは、私が落語好きでしかも父ゆずりの東京人の乱暴な口のきき方を引きついでおり、おまけにせっかちで早口ときているせいなのか(これは多分にありそう?)、それとも長年この番組を聴き続けたせいなのか。もし、後者だとすれば、世の中に少なからずの山下達郎調で話す御仁がおられることになる。ご本人もライヴで言ってましたが、そして、私も周囲の人になかなか分かってもらえませんが、東京の人間は口が悪いんですよ。(追記)その週末、中学生になったその姪が、いつの間にかビートルズ好き(!)になって遊びに来て(全部揃ってますよハイ)、拙宅にある立川談志のDVDを見て、いかにも私らしいと言ったそうな。なぜかそういう肝心な瞬間にいつも私はいない。もしかしたら私の最大の理解者はわが姪なのかもしれない。