それぞれのファン研究

 お仕事読書。以前読んだ本のからみで気になるところ、興味深い点をピックアップ*1。まず、腐女子をめぐって、

活動者たち自身の考え方と一般メディアによる表象との間には、葛藤がある一方で、メディアによるステレオタイプ化されたイメージへのおびえやそうしたイメージを内在化してしまう傾向も見られる。このような葛藤の中で、周囲の人びとに自分自身の活動について公表するかどうかという決定には、本人の意識の在りようと同時に、家族や友人のサブカルチャーへの意識との複合的な作用が重要な意味を持つ。それに応じて、隠す/隠さないという選択がなされている(75頁)。

つまり、関係性に左右されるところがあると。その関係性ということろで、宝塚について書かれた論文を読んでみると、

「宝塚」の舞台では、異性愛関係であれ男同士の関係であれ、濃密な関係が描かれている。しかし、そこで表現される他者への愛着は、男役と娘役という性的身体を持たない男女によって演じられることで、性的欲望とは切り離されたものとして感知され、ある種の「非性的」な印象を与えるものになっている(216頁)。

これはよくわかる一方、

学校を模した「宝塚」の劇団のシステムは、「宝塚」の舞台裏にそのような学園ものの舞台設定を提供することで、その中での友情をイメージしやすくすると共に、オフの領域の物語性をしっかりと形づくる効果を持っている(224頁)。

あの何組といかいう話を思い出せば、この指摘はごもっとも、というわけで、

「宝塚」では、異性愛関係を演じる男役と娘役の間にも、オフの領域での関係性が読み取られる契機が存在している。「宝塚」の舞台は異性愛の物語が中心ではあるが、それを通して、異性愛関係とは性質が異なるはずのオフの劇団同士の関係性を感じさせることが可能になっているのである(227-8頁)。
「宝塚」では、非現実的な舞台の世界の中に、劇団員同士の絆が息づいているように感じることが可能である。ファンが「宝塚」の舞台に魅了されるのは、表象である舞台内容の愛好はもちろんのこと、深層であるオフの領域への関心と愛着も関わっているのである(229-30頁)。

 そして、この二つの重なりを介して、「タカラジェンヌ」同士の絆や集団の凝集性から「ホモソーシャル」な絆を読み取るのは容易なことだろう。「現代の社会では、強固な女性のホモソーシャリティの表象が異性愛によって不可視になりやすいのである。したがって、女性のホモソーシャリティの表象が社会的に難しくなる。このことを逆に言えば、異性愛の影響がなんらかの形で統制されているところでは、女性のホモソーシャリティが表象される可能性が開けることになる」(231頁)。
 しかも、「また、「宝塚」のファンの世界も、女同士の関係に特徴づけられている」(235頁)。「女性だけの舞台である「宝塚」は、そのファンの世界もまた、女同士の絆によって形成されている」(236頁)。とても納得のいく分析。異性愛を排除するという意味ではここに女性嫌悪を読み取ることすら可能かもしれない。ところで、この女性ファン同士の関係は、たとえば、ジャニーズ・ファン同士の関係と比べてどうなっているのだろう?

 この点で興味深いのが最後に来る、1990年代後半以降目立ってきたという、ジャニーズ・ファンのあいだで回覧される怪文書についての分析

ジャニーズ系のファンたちは、「女性らしさ」から一面において逃避しようとしているかに見えて、むしろ別な面では強化してしまっているのではないだろうか。
 つまり外見的な要素に関する自己評価が低い(=自信がない)がゆえに、着飾るファッションや異性へのアピールといった「女性らしさ」から距離をとろうとしている。しかしその一方で、自分とアイドルとの関係の安住さを維持するために、その障害となるものと直接的に取り除くのではなく、むしろ仲間内で悪い噂(=『怪文書』)を拾えることで間接的に攻撃しようともしている。このふるまいはいわゆる「女性らしさ」とされるふるまいの中でも特にネガティブなものの一つではないか。
 この点については、「他者攻撃」のテーマにおいて、---、アイドルとの直接的な接触を攻撃するのは、まさしく「関係性の快楽」における障害を取り除くためであろう(278-9頁)。

 ここにも女性のホモソーシャリティを読み込むことは容易だ。また、たしかに、指摘されているように「女性性」が再生産されているのかもしれない。ただ、それが異性愛的な関係から切り離されたところで回っているように見えるのだがどうだろう?
 

それぞれのファン研究―I am a fan (ポップカルチュア選書「レッセーの荒野」)

それぞれのファン研究―I am a fan (ポップカルチュア選書「レッセーの荒野」)

*1:http://d.hatena.ne.jp/Talpidae/20090615の続きということで