クリステヴァ『外国人』

 そういえばこんな本もあったなと読んでみた。ひとつの社会で「外人」がどのように扱われてきたかの変遷がわかるのが便利。そして、これは言われてみれば、まったくその通り。「我々の文明の黎明期に発生した最初の外人が女たちだったことは注目してよい」(56頁)。アレントにのって枠組みをまとめ、

 人間と公民の間にある傷、それが外人である。---。法をみる限り、今日の外人問題は、ギリシア以来の国家、その頂点としての国民国家の論理に動かされていることが明らかである。よい方へいくか(民主主義体制)、悪い方へそれるか(全体主義体制)はともかく、何らかの排除はまぬがれない(120頁)。

 人間の尊厳の尊重というところに話をもっていくのだが、

 言語能力を有する存在であることを本質的な事実とみなし、これを保持するならば、人間的尊厳の崩壊を正しくとらえ、これに対処し、あわよくばこれを変質させることができるかもしれない(190頁)。

 最後は精神分析の話になる。

 記号的表現が記号性を弱め、事物化が進んで心的現実が形成され現実の外界にとってかわる時には、不気味が体験されることになる(227頁)。不気味は《創造と現実の境界》が消えた時に生ずる。つまり、Unheimlicheとは意識が防御力を喪失することというわけだ(229頁)。我々がしっかりと自分たちだけの《我々》にしておきたいものの真っ只中に影の如く出現する他者。それは悪魔の如く、脅威、不安を生む。しかしこの時出現したものこそ我々自身の他者性に他ならないのだ(233頁)。