矢沢永吉

 今年の夏前に、最近の永チャンが語る番組と、30年くらい前に永チャンが語る番組の再放送があって、いずれもとても興味深かった。今も昔も、永チャンは、いい意味でちっとも変わってない。決してぶれることがなく、年をとった分だけ深みが増している。あまりに面白かったので、この年になってはじめて『成りあがり』まで読んでしまった。

 この人、これから自分が何をやろうとしていて、いまの自分に何ができて、だからいま何をやらなければならないかについて、極めて自覚的な人だ。また、そうやってあの年まで第一線でやってきた人間だからこそ見せることのできるやさしさすら感じられてくる。そして、還暦をむかえる永チャンの歌う姿はいまだにカッコよかった。

 というわけで、熱心なファンというわけではないけれど、長年それなりにつきあってきたミュージシャンの一人だし、一度はライヴを見てみてみたいという思いもあったので、チケットを予約してみたらなんと取れてしまった。取れるなんて思っていなかったのでちょっとびっくり(山下達郎はとれなかったのに)。えっ、ホントに行くの?でも、永チャンのファンって、長渕ファンよりも怖そう。タオルを用意しなきゃいけないらしいし(結局、当日物販の店を見つけられず入手できなかった)。

 そんなこんなで当日、会場にやって来たら、やたらと客入れに時間がかかる。どういうわけだと思ったら、飲酒入場不可ということで飲酒チェックをやってるのだ。入口の隣には飲酒返金所まである。警備員はガタイのいい見るからにプロという感じの人ばかりで、学生のバイトなんかじゃない。ちなみに、コンサート中も彼らがずっと巡回していた。で、ボクの前に並んでいたおそろいの格好で決めたちょっと怖そうな面々の一人が酒臭いということで止められてた。入ってみれば、傍らには学割用の返金所がある。ここまでの時点で、すでに矢沢スッゲー。

 しかも、会場内からはなんだか騒ぐ声が聞こえてくる。なんだろうと思っていたら、いたるところで誰かが音頭をとっては「永チャン、サイコー」とコールを煽って、それがあたりにひろがっていくのだ。といっても、お客さんはヤンキー風の人もいれば「ふつう」の感じの人もいる。年齢層も多様。というわけで、これまでのコンサートでは経験したことのない異様な雰囲気にちょっと飲まれた感じがしたものの、始まってみれば楽しい楽しい。名古屋ってライヴ・ハウスだとノリがいいのに、コンサート・ホールぐらいになるとノリがイマイチということが多いんだけど(自分が何を見てるかも関係してるかもしれませんが)、これは例外。コンサートでこんなにノリのいいライヴを見たことがない。

 まず、スポーツセンターのホールでやってるのにやたらとバンドの音がいい。テレビの永チャンはどちらかというとバラード主体で歌っていたけれど(もちろん、それも悪くはないのだが)、どあたまから「矢沢ロックンロールしてます」って感じでノリノリ。永チャンはマイクスタンドを振り回し、ステージ狭しと歩き回る。また、しばしば客席にライトが当たる。アンコールならともかく、コンサートの最中にこれだけ観客席にライトを当てるライヴも見た覚えがない。「オレもオマエらみんなを見てるんだぜ」ってことなんだろうね。アンコールは拍手じゃなくて「永チャン」コール。で、キャロル時代の曲までやってくれて、オー。というわけで、まさにロックンロールを満喫した気分で楽しく帰ってきた。

 最初に書いたように、矢沢永吉とは自分のやろうとしていることに極めて自覚的な人なのであって、もちろん、そこにはプロ中のプロとして、矢沢永吉がすべてのファンに分け隔てなく楽しんでもらえるよう周到に計算したうえでのロックンロール・ショーがあったのだ(もちろん、計算ばかりじゃないだろうけど)。そうした心づかいが感じられるのがまた嬉しく、それだけライヴも楽しめる。今度はちゃんとバスタオルを用意して行こうかな。矢沢サイコーですよ。

ROCK'N'ROLL

ROCK'N'ROLL

新装版 矢沢永吉激論集 成りあがり How to be BIG (角川文庫)

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