『筑紫哲也』

 当時、ボクは、この人にたいして複雑な印象を抱きながらテレビをみていたのだが、そうはいっても、「ニュース23」が始まってからボクの見るニュース番組が次第にここに固定していったのは確かだった。何かあると、今日の筑紫は「多事争論」で何を話すんだろうと、それだけを知りたいがために見ていたようなときもあった。そして、いまだに番組中の彼の発言でいくつか思い出せるものもある。いまにして思えば、ニュース番組という枠のなかで、一個人の真摯なことばがストレートに出てくる稀有な瞬間だったのではないかと思う。その一方で、いまや、テレビはニュース番組でさえなかなか見る気になれない。

 で、思うに、あらためてこの本を読んでおくのは悪くない。この本からうかがわれるかぎり、この人、とても面白い人だ。自分の世界があるというか、自分が何をやったらいいのか、何をやるべきかということについて極めて自覚的な人なんだと思う。もちろん、そのためにしなければならない努力というものがある。でも、だからといって堅物というわけでもない。暇をみては映画や芝居等々によくでかけていたという話は、当時からよく聞こえてきた話だった。きっとそんな抜いた部分も必要だったのだろうし、それがまた自分の世界にフィードバックされてくる。なんかそんな循環があるような気がした。

 他にも、筑紫哲也を回顧する記事その他を見かけているが、願わくばそれがただの思い出話に終わらないように。「今日はざっとこんなところです」。

筑紫哲也 (週刊朝日MOOK)

筑紫哲也 (週刊朝日MOOK)