『不安定雇用という虚像』

 本来なら昨春読んでいるはずの本を、いろいろ事情があって、今頃になって読んでいる(今年はこういうのが多くて大変)。しっかし、すっごいタイトルのつけかた。非典型労働に従事する人たちがどのような状況に置かれているかをパート、フリーター、派遣に分けてそれぞれのデータから分析してみた本。それぞれの置かれている状況が分かって有益な本ではあったが、それなりの留保はあるとはいえそれが最後にこのようにまとめられてしまうのは、一面の真理であるにはしても、どうなのだろう?

”はじめに”では、非正社員に関して、正社員の雇用機会がないために、やむなく非自発的に非正社員の働き方をした者が多く、また不安定かつ低賃金の雇用であり、能力開発の機会も乏しく、働く人々にとって望ましくない働き方であるとの意見も多いことを指摘した。しかし働き手の視点からの分析によれば、そうした主張が、非正社員の働き方のすべてに当てはまるわけではないことが明らかにされた。非正社員のかなりは、自分のライフスタイルにあった仕事上の希望(仕事志向)を充足しやすい働き方として非正社員の働き方を選択していると言えよう。したがって、非正社員の働き方を望ましいものでないとし、非正社員の正社員化を促進することは、こうした人々の働き方の選択肢を奪うことにもなり、働く人々の希望を実現する機会を狭めることになろう(144-5頁)。

 でも、たとえば、フリーターについて言えば、働き方には不満だが、勤務先には満足しているという実状があり、しかも、満足度が高いのも人間関係に依存する部分が大きいであろうと推測されることまで確認している(想定される勤務先では年齢が同じくらいの仲間が多いだろうからね)。また、正社員志向が高いのに、勤務先でのスキル・アップや正社員への登用へはさして関心がないことも明らかになっている。つまり、フリーターたちは、自分たちの職場はそれなりに楽しいけれど、こんなとこいつまでもいるとこじゃないことは分かっているわけだ。
 また、派遣社員については、働き方にも勤務先にも満足しているというデータが出てくるわけだが、一方で、こうした選択の背景には「残業を引き受ける必要がなく、毎日の労働時間が一定しているというメリット」がある可能性が指摘されている。とすれば、この満足度なるものは、ノーマルな正社員の労働条件が悪すぎるから生じてきたものにすぎない可能性だってある。しかも、満足しているという賃金は月収25万円前後。いつも仕事があるとはかぎらないうえに、独身のまま老後を迎える可能性まで視野にいれたら、この賃金水準で本当に先行き不安はないのだろうか?
 主婦パートの満足度にしても、配偶者控除、いわゆる103万円の壁があってのうえでの話。つまり、ここで確認されている充足なるものは既存の標準的な正規雇用の処遇を前提にしてこそ成り立つものではないだろうか?しかし、前提になる正規雇用の労働条件そのものには何も問題はないのだろうか?たとえば、長い、それもしばしば、サーヴィス残業ってどうなのよ。また、こうした多様な働き方を提供する可能性自体が、景気等他の問題も含めて、その背景をなす正規雇用をとりまく状況そのものおびやかしていたりはしないだろうか?って考えると、話の落としどころとしてこれはちょっとどうなのよと思えてくるのだがどうなのでしょう?

不安定雇用という虚像―パート・フリーター・派遣の実像

不安定雇用という虚像―パート・フリーター・派遣の実像