かつて、ノルマンディーで

 ミッシェル・フーコーが編んだ本で『ピエール・リヴィエールの犯罪』という本があるけれど、当時、この本をベースに『私ピエール・リヴィエールは母と妹と弟を殺した』と題した映画が撮られている。このとき監督のルネ・アリオは、主要な登場人物に事件が起こったノルマンディーの人たちを起用して映画を撮った。
 そして、この映画は、当時助監督だったフィリベールが当時の登場人物たちをノルマンディーに訪ねていくドキュメンタリー。いまのボクにはこの作品を十分消化する能力はないに等しいが、それでも、当時の出演者がそれぞれ、フィリベール本人のことも含めて、あの作品に出演したことをきわめて明瞭に記憶しており、それを懐かしげに、しかも、現在ある自分と結びつけて語る、その姿が何よりも印象的だった。フーコーたちがピエールという農民の記憶を残そうとしたように、この映画は映画作りが生み出した登場人物たちの記憶を残そうとしているとでも言えばいいだろうか*1フーコーの本を読んだうえで調子のよいときに再見したい。できれば、オリジナルの映画作品の方も。

*1:もう一つの主題は父かしら。ピエールは父のために殺人をおかし、その主人公役を演じたエベールとは最後にやっと連絡がつくのだが、彼にとって、そしてフィリベールにとって、アリオは父のようなものだろう。そして、撮られたものの実際の作品では使われなかったフィリベールの父の映像を発掘してこの映画は終わる。