きだみのる

 部落のことについて調べているうちに、きだみのるのことが気になりはじめた。本名は山田吉彦、マルセル・モースの弟子で、L・ブリュル『未開社会の思惟』やファーブル昆虫記の訳者とくると、名前だけは知ってますという感じだったきだみのるが思いのほか自分に馴染みのある人だったことがわかる。それに戦前にジュリアン・バンダ『知識人の反逆』なんてものも訳してたりする。この人、いったいどんな人?
 そしたら、昨年こんな本が出ていることを知り、『みすず』で去年の5冊に挙げている人もいたから、きだの本そのものとあわせて借り出して読んでみることにした。で、読んでみたら正直のところがっかりした。サブタイトルの「自由になるためのメソッド」なんて中身とはまったく関係ないといってもいい。こちらとしては、伝記+αを期待したのだが、内容はと言えば読書ノートみたいな感じだ。たしかに、きだの本がいずれも入手困難なものであることを鑑みれば、その内容を逐一紹介していくのも悪くはなかろうが、でも、これ読んでもあんまりきだっていうひとの人物が見えてきた気がしないのだ。気違い部落については、宮本常一や勝俣鎮夫の議論との接点が指摘されていて、これも興味深いところではあるのだが如何せん中途半端だ*1
 ボクが思うに、きだみのるの部落論では、多少の異同はあれ、守田志郎の部落論や福田克彦の古村的思考に重なるような議論がなされており、このブログでも少しは触れた色川大吉や桜井徳太郎といった民衆的視点にこだわる論者の議論とも接点が見出されるように思う。なにせ、部落の論理と結びつけながら砂川や内灘が取り上げられていくのだ。そして、これはまったくの憶測だが、おそらくは、荘園の解体以降、近世日本で形成されていく部落あるいは家の構造を取り出したものといってもいいんじゃないだろうか?

きだみのる―自由になるためのメソッド

きだみのる―自由になるためのメソッド

*1:とはいえ、この本は読んでなかった。読もう。

戦国時代論

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アジア特電 1937~1985―過激なる極東

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