『写真0年 沖縄』−名古屋展シンポ

 けっきょくへたって上京しなかったので、近所でやってる『写真0年 沖縄』-名古屋展のシンポへ行ってみた。遅れていったので『島クトゥバで語る戦世』から見たのだけれど、このドキュメンタリーを見て感じたのは何よりも、うちなわぐちってこんなにも分からないものなのかってことだった。分かったのは「アメリカ」とかの固有名詞、あとは日付(なんで日付だけは、はっきり分かるんだろう?)。そうしたごく一部の言葉をのぞけばまったくわからない。で、字幕を見るしかないわけだが、それこそ字幕付で英語の映画を見るよりも分からないというのがなんだかショック。しかも、話す内容は深刻なのに、その語りがなんだか聞いていて心地よく、それを聞きながらアップで映し出されるおじい、おばあの表情を見ているとなにかとてもいとおしい気持ちになる。使い慣れた言葉を使うことが、おじいおばあにとって記憶をたどっる呼び水になるんだろうが、語り出される体験がその語り口にそぐわないので、話を聞きながらそれを定型的な表現に流し込もうとするのがなんだか難しい。
 次のシンポジウムも面白かった。名古屋での展示は狭い一室で行われるもので、沖縄で催されたそれとは規模も展示形態も異なる。それが議論の一つのポイントになった。まず展示を確認しておくと、比嘉豊光による「島クトゥバで語る戦世」は、島クトゥバで語るおじいおばあの表情を撮り続けたもので*1、沖縄ではそれまで撮り続けてきた680枚余のすべてが展示されていたらしい。だが、Cスクエアではそれができるわけもなく、20枚程度の写真が選ばれ、その隣には北島敬三の、それも沖縄の写真ではなく、ポートレートが置かれている。このポートレートは、同一の人物の経年変化を追っていったもので、キャプションから3人の人物のうち2人が故人であることが分かる。その隣には浜昇が70年代に撮った沖縄の風景写真がある。これで部屋の三方が囲まれ、入り口は比嘉の全軍労のストの写真と北島のPlaces*2が衝立になって入口を仕切り、真ん中の空間には浜昇の『VACANT LAND 1989』という写真集が置かれている。これは1989年に東京の空き地をすべて撮ったというすごい代物だ*3。こうやってみると、写される対象の終わらさというか、際限のなさがある一方で、そこに失われゆくものを見いだしてしまう、そんな存在を感じさせる構成になっているように見えた。
 シンポで比嘉さんがかみついていたのは(この人おもしろい)、自分にしてみればおじいおばあの写真は「ずっと撮り続けて全部を見せる写真」なのだが、この展示形態だと「ドキュメントがクリエイションになってしまったのかな」と。だが写真を作品として展示しているつもりはないということだった。北島氏がついだ言葉で言えば、「ある瞬間に獲得される現在性をどのようにして逃さないか」、ドキュメントとして写真が成り立つかが問題で、そこが『沖縄マンダラ』との違いだし、そのためには「発表する時間をいつつかまえるか」だって考えなくてはならない。実際、展示されている写真は必ずしも最近撮られたものばかりというわけでもないし、北島氏の沖縄の写真はこれまで未発表のものだったらしい。そんなわけで、この名古屋での展示はキュレーターの倉石信乃氏の意図がかなり明瞭で*4、それが写真家たちのもともとの狙いとは必ずしも一致するものではなかったようだ。こんな食い違いが議論になる場面にお目にかかれるだけでも出てきたかいがあった。
 ボクが比嘉さんの写真を見て気になったのは、土本典昭監督が水俣で集めた遺影のことだった。土本監督は水俣病患者の遺影を集めて回りそれを水俣展で展示している。もちろん複写した写真と写真家の撮る写真はまったく違ったものだろう。でも、684枚も並ぶとなればどうしてもそれが気になってしまう。これ、聞いたものかと思っていたら、際限のない写真を撮る作業と死というのはどうかかわるのだろうという質問が出た。これに対して、比嘉さんは、自分の写真を見て「遺影になる」と言われたことがあり、それは自分が撮った写真が遺族たちに故人の存在をとらえたものとして受け入れられ残っていくということだ。それは最高に幸せなことだと語っていた。うわー、すっげー。他にも、写真は記憶にないものを写してしまうし、そこから記憶を呼びだすかもしれないが、写真そのものは記憶ではないといった話も出た。
 そんな感じで面白いシンポだった。でも、司会はもう少しうまく進行して欲しかったな。面白いトピックが出てるのに、話を次に移そうとしたりしないように。それから、この比嘉豊光っていう人なんだかとても面白そう。シンポのあいだもお酒飲んで、その表情がとてもよかった。やはりシンポに出ていた小原真史監督は、北島氏に「この人撮って」と言われたらしいけど、比嘉さんを追いかけているらしい。この日もカメラを回していた。いつかそれが見られるのかな。こちらも楽しみにしたい。その前にもう一度『カメラになった男 写真家中平卓馬』を見ておきたいな*5