ワラッテイイトモ

 2003年にキリンアワードを受賞した『ワラッテイイトモ』という映像作品がある。タモリの『笑っていいとも』をサンプリングして作ったもので、著作権の関係上一般に公開できないということでも話題になった作品である。当時からどういうものなのか見てみたいと思っていたのだが、今回「ガンダーラ映画祭」という企画があって、月木の夜、それぞれ一回だけ上映されるということが分かったので見に行った。これがスゴかった。
 作品は、一週間『笑っていいとも』で放映された番組をそれぞれサンプリングしながら、月曜、火曜、水曜、木曜、金曜それぞれの作品を並べていくという作りになっている。月曜は「奇跡」と題して、『笑っていいとも』ではたまに一切司会者がしゃべらない日があり、自分はそれを見たということで、映像をサンプリングしてタモリが一言もしゃべらない番組が流れる。火曜は「黒田藩」と題して、人形を使ったりしながらタモリの生い立ちや私生活が番組と並行して紹介され、そのなかにタモリが暴漢に襲われそうになったというエピソードも紹介される。
 ここまでは映像をつないで遊んでいるという感じで作品が作られていたのが、水曜、木曜では「邂逅」と題して、映像のなかからタモリを取り出して、そのタモリと、自宅の部屋にいる作り手のKKが対話し、タモリがKKにつっこみを入れるという形で映像が組織されていく。このとき映し出されるKKの部屋は、まるで宮崎勤のそれだった。また、レンタル・ヴィデオの映像の最後の部分に自分の作った映像を入れるという話もでてきた(ある意味、この作品の構造がそうなっている)。
 そして、最後の金曜日、この日は「ライブ」と題してKKが『笑っていいとも』を生放送中のアルタ前まで行く日の映像だ。最初のうちサンプリングの映像は確かに面白く笑えたのだが、他方で、この作品がどうしてそこまで高く評価されたのかがよく分からずにいた。しかし、金曜の映像で作品の印象がまったく変わってしまった。金曜の前半は、KKがアルタ前まで行く映像が映され、アルタ前のカメラが捕らえたKKの映像がただ流されるだけだといってもよいのだが、それを見ながらボクはなんとも言えない恐怖を感じていた。アルタへ向かう映像がテロを予感させてしまうのだ。そして、それと同時に、これまで見せられてきた映像の意味がまったく違ったものに感じられてきた。
 テレビは見るものだし、見せられるものだ。最初はそんなテレビの映像をいじって遊んでいるだけのように見えた。しかし、火曜にはタモリの私生活がのぞき見られている。暴漢に襲われそうになったエピソードもあった。水曜木曜には映像というよりタモリその人がおもちゃにされ、そのタモリがKKをいじくっている。ここで、映像はよりKKの妄想めいたものになり、テレビあるいはタモリは見せられているのではなくむしろ(のぞき)見られているように感じられてくる。しかも、KKの部屋は宮崎勤のそれを思わせた。金曜には、そのKKが「現実の世界」へ足を踏み入れ、アルタへ向かっている。
 おそらくこの映像に不気味なものを感じていたのはボクだけではないだろう。木曜の映像までは場内には笑い声がちらほらしていたのだが、金曜「ライブ」になってからは場内が不気味なほど静まりかえっていた。そして、公園にテレビを置いてアルタ前へ行く映像を流す場面を映すなかで、KKがハンマーをもってそのテレビの前に現れたときには、思わず「スッゲー」とつぶやかずにはいられなかった。そんなわけで、久々に映像をみながら「ぞくっ」ときた。それを、反芻するために呑んで帰った。