立川談春三十周年記念落語会『もとのその一』−THE FINAL− 追加公演
この口演、いったい何回つきあったんだか分からないけど、一体最後はどうなるのか気になったので行ってみた。今回はふつうに前座をたてて、開口一番は春風亭正太郎の「言助魚」。で、前半の二席は「たがや」に「小猿七之助」、いずれもマクラは軽く振るだけですぐに本題へ。
とりわけ、談志の死後、とりわけ『もとのその一』を始めてから、談春は自分の持ち味であるあの小気味いい語り口を極力封印してきたように思う。むしろ、談志の「芝浜」なんかが典型的にそうであるように、落語のなかの人物がどんどん勝手にしゃべりだすようなスタイルが強調されているように思えた。それはそれで好きだけど、「九州吹き戻し」で聞かせたようなあの心地より語り口も捨てがたいんだけどなーという気分がいつもあった。ただ、それはファンの身勝手というもので噺家は噺家で自ら自分の道を進んでいくんだろうと思っていた。
しかし、きょうの「たがや」の語り口は情景描写もふくめて見事、たが屋の啖呵もスゴイ。正直、軽い話だと思っていた「たがや」でこれだけ聞かされたことは過去にあったかどうか。少なくとも、以前聞いた談春の「たがや」と比べても段違いだ。そして、「小猿七之助」、こちらははじめて聞くネタだが、おそらく談志が講談から落語に移したものだろう。さらに彼の持ち味の語り口が炸裂。とにかく、二席続けて完璧に聞かされてしまった。これだけ語りこむからマクラは軽めだったわけね。
で、中入り後の「居残り佐平次」はどうなるかと思いきややはりマクラを軽くふった後、本題に入るが、こちらは登場人物なによりも佐平次が生き生きと動き出す話法で、前半と後半でまったく異なるスタイルで噺を語ってみせた。もうお見事という他はない。『もとのその一』でまた一枚皮がむけたという感じなのだろうか。こりゃ、これからも談春は追いかけねばなるまいな。
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