訴訟

 『審判』の末尾を読み返したくて、この本で開いてみる。学生時分、カフカカミュ、あるいはゴダールあたりの紹介はしばしば人間の不条理を描いたものだとまとめられていて、それって何の説明にもなってないやんかと思っていた。そのうちこの「不条理」ってことばがabsurdの系列に属する言葉だと知って、 これ、日本語の語感と全然ちがうやろと思った。仕事についてからは、働くということは「不条理」の連続だということを思い知らされ、思い返せば子ども時代も「不条理」の連続だったということに気づいた(山口香さん頑張って)。というわけで、「不条理」というものの見方がこの20年間に完全に変わってしまった。

だがKの喉には一方の男の両手が当てられ、もう一方の男が庖丁をKの胸に刺し、刺したまま二回回した。かずんでいくKのめになんとか見えた。Kの顔のそばで、ふたりの男が、ほっぺたとほっぺたをくっつけて、決着の観察をしている。「犬みたいだ!」と、Kは言った、恥ずかしさだけが生き残るような気がした(343頁)。

訴訟 (光文社古典新訳文庫)

訴訟 (光文社古典新訳文庫)

この版で行くとここで終わった感じがしない。訳者曰く訴訟は終わりようのないものと(なんか、どうやってフェーデを止めたかとかおさらいしたくなってきた)。ドゥルーズ/ガタリの言うように、これが夢だった可能性は充分ありなのだという。