日本中世法史論

 週末は仕事と関係しない本を読むぞということで手始めに。折り紙の話も興味深い

鎌倉時代の幕府法は、当面する頻発的且具体的訴訟の一元的解決を図るところにその主要な立法契機をもつ半面、未来に対しては極めて限定的な拘束力をもつに過ぎなかった。当時の幕府訴訟が一見方に準拠し、先例に従って判決がなされる如くみえながら、実は過去の法規範からの束縛、既成法発見の意識に欠け、従って法源の保存は不完全であり判例の集積も積極的であり得ず、法は判例の適用に於いて著しく当事者主義的である。いわば過去の法規範が実際の訴訟の場に効力をもつ事が、むしろ偶発的例外的であるとさえいい得るであろう。しかし中世を通じて一貫する右の如き幕府法の性格も、室町も後半期に入るとそこには相当の変化があらわれてくる。前代にみられた法のいわば後向きの効力、既成法の発見適用によるよりも新しい立法措置によって問題を解決するという傾向、それ等は確かに室町期に至っても払拭されてはいない。しかし、同時に、既成法の中から積極的に規範となるべき法を発見し、これを解釈・適用していこうとする純法理主義的傾向の台頭も亦指摘されねばならない事実であるからである。然も私には、この法性格の変質にこそ、この時期に至って「意見」なる形式が主要な判決要素となり、奉行人とよばれる法律専門家がその意見機関を独占するという制度上の変化に重大な関連をもつものと考えられるのである(86頁)。

日本中世法史論

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