『童貞を。プロデュース』

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 噂の『童貞。をプロデュース』が名古屋で三日だけ夜一回の上映。というわけで、シネマスコーレへ。初日の今夜は松江監督来訪ということで、混んでそうだからやめようかと思いつつぎりぎりに行ったら、補助席まで出る超満員だったけどなんとか座れた*1。映画は(たいてい「男」はみんなそうだと思うけど)昔の自分を思い出してちょっと身につまされつつも面白かった(でも、トークで松江監督が言っていたけれど、彼らは平気で「自分は童貞だ」とか言ってしまうそうで、そこに自分たちとの世代差を感じるそうな)。
 私的には、前半の加賀君には爆笑、後半の梅澤君はディープすぎてあまり笑えなかったのだが、スゴイのはこっち。ウィークデイは仕事の合間にゴミ拾い、週末はブックオフ巡り、それでスクラップ・ブックをつくるのが楽しみって。でも、都心をちょっと離れて郊外へ出ていくと、街道筋に並ぶ量販店やラブホをのぞけば、あとは黒い屋根瓦でせいぜい二階建ての住宅が続くだけ、そんな光景に行き当たる。そして、そんな空間に出ると妙な懐かしさと同時に何だかとても抑鬱した気分に襲われる。ああ、ここでずっと生きていくのはつらそうだよなー。そんな郊外でグレもせずにシケた仕事をして暮らして行こうとすれば、きっとこんな感じになるよね。そんな感じで梅澤君を見てしまうのだ。
 監督は、そんな二人の童貞君にヴィデオ・カメラを渡し、そこに現れた二人の姿をきっかけに物語が展開していくのだが(彼女にコクれとか、作った映像を当の島田奈美に見せようとか)、そのなかで、二人がそれぞれつきぬけていく感じがとてもいい。改めて思うに、20歳前後の男の子にとってセクシュアリティの問題って大きいよね。あとになってみれば、それほどこだわるようなことじゃないって分かってくるんだけど。それがなんだか閉じた感じを作り出してしまう。それを変えるのが手渡されたカメラだ。
 誰でもカメラを手に入れたらまず何でもいいから撮ってみたくなるように、こうしてヴィデオ・カメラを渡されると、きっと「じゃあ何を撮ってみようか」っていう楽しさが生まれてくるにちがいない。そして、そんな好奇心から、本来なら決して人前にはさらしはしないであろう抑圧的な部分にも思わずカメラが向けられてしまう。しかも、それが結構面白かったり、よかったりする。松江監督もトークで本人にカメラを回せると油断が生まれて、自分(松江)には撮れない映像が撮れてしまうと語っていた。そんな感じで、カメラは自分自身に向ける視点に他者性を導入し、それが向けられた自分の側にも入りこんでくる。そうやって始まる運動が松江監督の手にかかって一つの物語に仕立てあげられていくわけだ。
 本作品にあわせて毎回他の松江作品も上映されるということで、彼が撮ったAV『前略、大沢遥様』も見てきた。AVといっても何だか変なAVで、ドキュメンタリー・タッチ(でも、考えてみればAVって肝心なところはドキュメンタリーであることが期待されているのだ)。しかも、最初はスタッフ同士の「オマエいつ童貞なくした」というおしゃべりとか、童貞話で盛り上がるロケハンの模様とかが出てきて、肝心のAV女優が出てこない。中盤からは件の大沢遥ちゃんも出てきてロケに向かうわけだが、『童貞。をプロデュース』を見た後だと、あえぐ彼女以上にその周囲をうろちょろしている助監の「童貞君(じゃないようだけど)」の挙動不審の行動が気になって仕方がない。あるいは、本番の前後で彼女の様子がけっこう変わってしまって帰りにはAV男優とうち解けていくのだが、それにたいする監督の嫉妬(の表明)も面白かったりする。AVでありながら、そんなのがしっかり映像に組み込まれているわけで、このらしからぬ視線がまた面白く、これも一種の「童貞。をプロデュース」という感じで楽しめた。

*1:松江哲明監督のブログはココ。http://d.hatena.ne.jp/matsue/